小説『すみっこぐらしの教室から』
- Reiko
- 7月23日
- 読了時間: 2分

教室のすみっこには、
誰も気づかないけれど、確かに「わたし」がいた。
小学校2年生のあの日から、
一分一秒も気を抜けない毎日が始まった。
汚い、嫌い、逃げられる。
そんな言葉が、
顔も名前も覚えていない誰かから、
毎日、毎日、降りかかってきた。
わたしは、幽霊みたいだった。
ただ歩くだけで、誰かに蹴られる。
ただノートを開くだけで、誰かに笑われる。
心がちぎれて、魂がどこかへ抜けていく感じ。
気づいたら、教室のすみっこが
わたしの「居場所」になっていた。
目立たない場所。
誰からも見られない席。
けれどそのすみっこには、
誰にも見えない、
わたしだけの小さな宇宙があった。
みんなが興味を持たないものに
心惹かれていった。
教科書の端に載っていた小さな詩。
裏山の石垣の隙間に咲いた名も知らぬ花。
机の裏に書かれた誰かの落書きの哲学。
「どうして、そんなところばっかり見てるの?」
誰も聞いてこない問いの答えを、
わたしだけが探していた。
そんなある日。
クラスのリーダー的存在の子が
ふいに声をかけてくれた。
「わたしたちは適当に頑張ってるのに、
あなた、国語の時間だけは本気ですごいね。」
顔が真っ赤になった。
ただ、それしか頑張れなかっただけなのに。
だって、それ以外は、
頑張る余裕なんてなかったんだよ。
毎時間、毎分、毎秒が戦いだった。
心の中では、いつも泣いていた。
でも。
そのひと言が、わたしの中の何かを
そっと撫でてくれたような気がした。
「すみっこぐらし」は、惨めじゃなかった。
そこには、わたしなりの感情があり、
日々、誰にも見えない形で「生きて」いた。
大人になった今でも、
人が多い場所では、少し緊張してしまう。
でも、たくさんの仲間と笑い合い、
出会いを心から「よかった」と思える自分がいる。
だからこそ、わたしは気づいたんだ。
すみっこぐらしには、
豊かで静かな愛があるって。
誰にも見えないところで、
小さくても確かに咲いていた、
あの頃の「わたし」に、
いま、ありがとうって言いたい。
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