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小説『わたしの夏休み』

  • 執筆者の写真: Reiko
    Reiko
  • 8月17日
  • 読了時間: 2分

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夏の匂いがすると、胸の奥で何かがざわめく。

海の潮風、線香花火の儚い光、濡れた髪に感じる夕暮れの涼しさ。

わたしはずっと、この季節と共に生きてきた。


結婚するまでは、夏といえば海だった。

父が運転する車の窓から吹き込む潮風。

母は笑顔で歌を口ずさみ、わたしたち姉妹は後部座席で浮き輪を抱えてはしゃいだ。

宿題は七月中に全部終わらせる。

それがわたしの小さなルールだった。

八月は、日記と自由研究だけ残し、あとは思いきり楽しむために。

机に向かって3〜4時間、真面目に鉛筆を走らせるわたしを、窓から差し込む真昼の光が包んでいた。


でも、成績が良かったわけじゃない。

ただ、「やらなければならないことはやる」。

それだけだった。

学校では目立たず、いじめられることも多かった。だから友だちと遊ぶより、半日は勉強、半日は学校のプール。

水の中だけが、心を解き放ってくれた。


幼い頃の夏は、もっと鮮やかだった。

父は海へ、母はママ友たちと川へ。

祖父母の家では、竹で組まれた流しそうめん台から流れる冷たい麺をすすり、スイカの甘さに笑顔がはじけた。

田んぼ、畑、山、そして海。自然の中で、従兄弟たちと鬼ごっこ、かくれんぼ、トランプ、替え歌大会。

夜になると、一つ年下の従妹が物語を語ってくれた。

みんなが眠っても、わたしは布団の中で最後まで耳を澄ませた。

あの夜の興奮が、今のわたしの執筆の原点なのかもしれない。


二十代の夏は、海と恋と花火だった。

友人や彼と行った夏祭り。

今はもうないナイトプールから見上げた大輪の花火。

水面に映る光と、横で笑う彼の横顔に、胸が高鳴った。

あの瞬間、世界は花火と彼しか存在しなかった。


結婚してからの夏も、やっぱり豊かだった。

亡き母、亡き義母が作ってくれた心のこもった料理。

ビール、焼酎、ワイン。

川のせせらぎや、海の波音に混じる、子どもたちの笑い声。

亡き父は、まるで使命のように、子どもたちに泳ぎを教えてくれた。

「手を伸ばせ、そうだ、そのまま!」

父の声が今でも耳に残っている。


そして、今、


わたしにとっての夏休みは、


与えられた宿題に情熱を燃やし、

夜空に咲く花火や海・川の自然に心を奪われ、

プールで水をかきながら、心の澱までも流していく時間。


水面に揺れる太陽の光。

花火の音に震える胸。

家族や友との語らい。

その一つひとつが、わたしの夏物語のページを彩ってきた。


そして、今年もまた、ページが一枚増える。

海の匂いとともに、あの頃の笑い声が、心の奥でそっとよみがえる。

 
 
 

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